かえった。私と千代子の視線が会うと思いなしか千代子はニッコリ笑うたようであった。
私は俯伏《うつぶ》して水を眺めた。そこには見る影もない私の顔が澄んだ秋の水鏡に映っている。欄干のところに落ちていた小石をそのまま足で水に落すと、波紋はすぐに私の象《かた》を消してしもうた。
波紋のみだれたように、私の思いは掻《か》き乱された。
あの女《ひと》はいま乳母と私について何事を語って行ったろう、あの女は何を笑ったのであろう、私の見すぼらしい姿を嘲笑《あざわら》ったのではあるまいか、私の穢《むさ》くるしい顔をおかしがって行ったのではあるまいか。
波紋は静まって水はまたもとの鏡にかえった、私は俯伏して、自分ながら嫌気のするような容貌《かおつき》をもう一度映しなおして見た、岸に咲きみだれた藤袴《ふじばかま》の花が、私の影にそうて優しい姿を水に投げている。
六
岡田の話では高谷千代子の家は橋を渡って突き当りに小学校がある、その学校の裏ということである。それを尋ねて見ようというのではないけれども、私はいつとはなしに大鳥神社の側を折れて、高谷千代子の家の垣根《かきね》に沿うて足を運んだ
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