ストルを私に渡してくれ、また帰りに追いかけられた場合の用意に、馬にちゃんと鞍をつけておこうと約束してくれただけだった。一方、一人の若者が、武装した援助の人を探しに、医師の許へ馬を走らせることになった。
私たち二人がその寒い晩この危険な冒険に出かけた時には、私の胸はひどくどきどきと動悸うった。ちょうど満月が昇り始めていて、霧の上の方の縁《へり》を通して赤くほのかに現れた。このために私たちはますます急いだ。という訳は、これでは、再び出て来る前に、すっかり昼のように明るくなっていて、家から私たちの出るのが見張っている者どもに見つけられてしまうことは、明かだったからである。私たちは音を立てずに速く生垣に沿うて走って行った。また、私たちの恐怖の念を増すものは何一つ見もしなければ聞きもしなかった。そしてとうとう「ベンボー提督屋」へ着いて、入口の扉《ドア》を背後にぴたりと閉めると、まったくほっとした。
私がすぐさま閂《かんぬき》をさし、私たちは、船長の死体のある家の中にただ二人きりで、暗闇《くらやみ》の中でちょっとの間はあはあ喘ぎながら立っていた。それから母が帳場から蝋燭を取って来て、私たちは互
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