に手を取り合いながら、談話室へ入って行った。船長は私たちの出て来た時のまま、仰向になって、眼を開いて、片腕を伸ばしながら、横っていた。
「鎧戸を下《おろ》して、ジムや。」と母が小声で言った。「あいつらが来て外から覗くかも知れないから。それからね、」と、私が鎧戸を下してしまうと、母が言った。「あれ[#「あれ」に傍点]から鍵を取らなきゃならないんだがね。あんなものに触《さわ》るなんてねえ!」そう言いながら母はしゃくり泣きのようなことをした。
 私はすぐさましゃがんで膝をついた。船長の手の近くの床《ゆか》の上に、片面を黒く塗った、小さな丸い紙片《かみきれ》があった。これがあの黒丸[#「黒丸」に傍点]であることは疑えなかった。取り上げて見ると、裏面に、頗る上手な明瞭な手跡で、こういう簡短な文句が書いてあった。「今夜十時まで待ってやる。」
「十時までなんだって、お母さん。」と私は言った。ちょうどそう言った時、家《うち》の古い掛時計が鳴り出した。この不意の音で私たちはぎょっとして跳び上った。けれども、これはよい知らせだった。というのは、まだ六時だったから。
「さあ、ジムや、あの鍵だよ。」と母が言っ
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