だって一杯だけなら何でもあるめえって言ったよ。一杯持って来れぁ一ギニー金貨を一枚やるよ、ジム。」
彼はだんだんと興奮して来たので、父に障りはしないかと私ははらはらした。父はその日はひどく悪くて、安静が必要だったのだ。それに、今船長の言った先生の言葉もあるから大丈夫だろうと思ったし、鼻薬でつろうとするのにはちょっと癪にさわった。
「あんたのお金なんかちっともほしかあないよ。お父さんにあんたが借りてる分の他《ほか》にはね。」と私は言った。「一杯だけ持って来てあげるが、それだけだよ。」
それを持って来てやると、彼はひったくるように掴んで、すっかり飲み干してしまった。
「よしよし、」と彼が言った。「確かに、幾らかよくなったよ。ところでな、おい、あの医者はどのくれえこの寝床ん中に寝てなきゃなんねえって言ってた?」
「どうしても一週間は、って。」と私は言った。
「ひえっ!」と彼は叫んだ。「一週間だと! そんなこたぁ出来ねえ。それまでにゃあ奴らは黒丸《くろまる》を持って来らあ。あのやくざ水夫どもはこの今だって己の風上へ出てうまくやろうとしてうろつき※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]ってる
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