黄熱でばたばた斃《たお》れる処《とこ》にもいたことがあるし、地震で海みてえにぐらぐらしてる御結構な土地にもいたことがある。――そんな処をあの医者が知っているかい? ――そして己はラムで命を繋いでいたんだ、ほんとうによ。己にゃあ、ラムは何よりの好物だ、大事《でえじ》な女房だ。己は今|風下《かざしも》の海岸に浮いている情ねえ老いぼれ船みてえなもんだから、そのラムが飲めねえとなれぁ、ジム、お前に崇《たた》るぞ。それからあの医者の阿呆にもな。」と彼はそれからまたしばらくの間悪口を言い続けた。「見てくれ、ジム、己の指はこんなにぶるぶるしているよ。」と口説くような調子で続けた。「じっとさせておけねえのだ。出来ねえんさ。今日《きょう》はまだ一|滴《しづく》もやらねえんでね。あの医者は馬鹿だよ、ほんとに。もしラムを少しも飲まなけれぁ、ジム、己は酒精《アルコール》中毒が起るよ。もう少しは起ってるのだ。己にゃあその隅に、お前の後《うしろ》に、フリント親分が見えてるんだ。刷物《すりもの》みてえに、はっきりと見えてるんだ。もし酒精中毒を起すとなると、己ぁ荒《あれ》え渡世をして来た男だ、大騒ぎを起すぜ。あの医者
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