だ。あの男は一週間はあそこで寝ていなければいけない、――それがあの男にも君|方《がた》にも一番よいことだ。しかしもう一度発作を起せばあの男も往生だよ。」

     第三章 黒丸《くろまる》

 午《ひる》頃、私は冷い飲物と薬とを持って船長の室へ入って行った。彼は、少しばかりずり上っただけで、私たちが室を出て来た時とほとんど同じようにして寝ていて、弱ってもおり興奮してもいるようだった。
「ジム、」と彼が言った。「ここじゃあ頼りになるなあお前《めえ》ばかりよ。で、己だっていつもお前にゃよくしてやったろう。一月《ひとつき》でも四ペンス銀貨をやらなかった月はないしさ。ところで、ねえ、己は今このようにずいぶ弱ってるし、だれも構っちゃくれねえ。で、ジム、お前己にラムを一|杯《ぺえ》持って来ておくれ。なあ、くれるだろ、え?」
「お医者さまが――」と私は言いかけた。
 けれども彼は急に、力のない声で、しかし心から、医師の悪口を言い出した。「医者なんて奴あみんな阿呆だ。」と彼は言った。「それに、あの医者なんか、へん、船乗のことなんぞ何を知ってるんだ? 己ぁ、瀝青《チャン》みてえに暑くって、仲間の奴らあ
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