った彼を見ると、私は気の毒に思った。
「おい、ビル、己を知ってるだろ。お前《めえ》は昔の船友達を知ってるな、きっと、ビル。」と他所の男が言った。
 船長は喘ぐような息をした。
「黒犬《ブラック・ドッグ》だな」」と彼は言った。
「でなくてだれなものか?」と一方は大分落着いて来て返答した。「まさにその黒犬《ブラックドッグ》が昔の船友達のビリーに逢いに来たのさ、『|ベンボー提督《アドミラル・ベンボー》屋』へな。ああ、ビル、ビル、お互《たげえ》にずいぶんといろんな目に遭ったものだな、己がこの二本指をなくしてから此方《このかた》よ。」と不具になった手を挙げてみせた。
「で、おい、」と船長が言った。「お前《めえ》は己を探し出した。己はここにいる。だから、さあ、はっきり言ってくれろ。何の用だ?」
「さすがはお前だ。」と黒犬が言った。「お前の言う通りだよ、ビリー。ところで己はこの子供からラムを一|杯《ぺえ》貰えてえんだ。己ぁこの子がとても気に入ったのだ。それから、どうか掛けてくんねえ。昔の船友達らしく、ざっくばらんに話すとしようじゃねえか。」
 私がラムを持って戻って来た時には、二人はもう船長の朝食の
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