うん、確かにそうだ。」
 そう言いながら、その男は私と一緒に談話室へ戻り、隅の方で私を彼の背後に立たせ、二人とも開いている扉の蔭に隠れるようにした。諸君も想像されるように、私はひどく不安でびくびくしていたが、その他所の男も確かに怖がっているのを見て取ると、私の恐怖の念はさらに加わった。彼は彎刀の柄《つか》にすぐ手をやれるようにしたり、刀身が鞘からいつでも抜けるようにしたりした。そして私たちがそこに待っている間中、彼は咽喉《のど》の詰る思いをしているかのように絶えず唾をごくりごくりと嚥みこんでいた。
 やがて大胯に船長が入って来て、右も左も見ずに扉を背後にばたんと閉《し》めると、朝食の用意のしてあるところへと室を突っ切ってまっすぐに進んだ。
「ビル。」と他所の男が言ったが、その声は強いて大胆そうに見せかけようとしているように思われた。
 船長はぐるりと後へ向いて私たちと向き合った。その顔には赭味《あかみ》がすっかりなくなっていたし、鼻までが蒼かった。幽霊か、悪魔か、それよりももっと怖いものでも見た人間のような顔付であった。そして、確かに、まったくちょっとの間にひどく老いぼれて元気のなくな
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