それから私たちみんなは洞穴へ入った。そこは広い風通しのよい場所で小さな泉と清水の水溜りがあり、その上には羊歯《しだ》が蔽いかかっていた。床《ゆか》は砂地であった。大きな焚火の前に、スモレット船長が寝ていた。そして、遠くの方の隅には、大きな山のような貨幣と、四辺形に積み上げられた黄金の棒とが、焚火の焔にただぼんやりとちらちら光っているのが見えた。それが、私たちが手に入れようとして遥々やって来た、そしてまたヒスパニオーラ号からすでに十七人の生命を失わさせた、フリントの宝なのであった。それを集めるために、どれだけ多くの血が流され悲しみが味われたか、どれだけの立派な船が海原《うなばら》で船底に孔をあけて沈められたか、どれだけの勇敢な人々が眼隠しされて船側の板を歩かせられて海に落ちたか、どれだけの大砲の弾丸が撃たれたか、どれだけの恥辱と虚偽と残虐とが行われたか、恐らく、生きている人間でそれを語り得る者は一人もなかったろう。だが、それらの罪悪にそれぞれ与《あずか》り、またそれぞれその報酬に与《あずか》ろうと望んでその甲斐《かい》のなかった人間が、その島にまだ三人いるのであった。――シルヴァーと、年寄のモーガンと、ベン・ガンとだ。
「来給え、ジム。」と船長が言った。「君は君の縄張ではいい子供だよ、ジム。だが君と私とがもう一度一緒に航海に出ようとは私は思わんな。君は生れつきあまり人気者なので私には手に負えんよ。そこにいるのはお前だな、ジョン・シルヴァー? おい、何しにここへ来たのだ?」
「わっしの義務をやりに戻って来ましたんで、はい。」とシルヴァーが答えた。
「ふむ!」と船長が言った。そしてそれっきり何も言わなかった。
その夜私が味方の人たちに囲まれて食べた晩餐の何と楽しかったことか。また、ベン・ガンの塩漬の山羊の肉や、ヒスパニオーラ号から持って来た幾つかの珍味や一罎《ひとびん》の年|経《へ》た葡萄酒で、その食事の何とおいしかったことか。確かに、それ以上に楽しげな幸福な人々はまたとなかったに違いない。そして、そこにはシルヴァーもいて、ほとんど焚火の光の届かない後の方に坐っていたが、しかしうまそうに食べ、何でも用のある時にはすぐに前へ跳んで来るし、私たちの笑う時にはおとなしく声を立ててそれに加わりさえした。――まったく、航海に出かけて来た時と同じあの柔和な、慇懃な、従順な船員であった。
第三十四章 それから結末
その翌朝、私たちは早くから働き始めた。この恐しくたくさんの黄金を浜まで陸路で一マイル近く運搬し、そこからボートでヒスパニオーラ号まで三マイル運搬するのは、そのような小人数の働き手にはずいぶんの仕事であったからである。まだ島をうろついている三人の奴は、大して私たちに面倒をかけなかった。山の肩のところに歩哨を一人だけ立たせておけばいかに不意に襲って来ても十分大丈夫だったし、その上、彼等は戦闘にはもう十二分に懲々《こりごり》していると私たちは思ったのだ。
だから作業はどしどし進められた。グレーとベン・ガンとはボートで往復し、彼等の行っている間にその他の者は浜に宝を積み上げた。綱の端にぶら下げた二本の金の棒は、大人一人に十分な荷で、――それを持ってのろのろと歩けるくらいのものだった。私は、運ぶのには大して役に立たないので、一日中洞穴の中にいて、せっせと金貨をパン嚢の中に詰め込んでいた。
それは実に珍しい蒐集物《コレクション》だった。いろいろな貨幣のある点ではビリー・ボーンズの箱の中にあった金《かね》と同じであったが、それよりはずっとたくさんでもありずっと種々雑多でもあったので、私にはそれを種類分けするのがこの上もなく面白かった。イギリスや、フランスや、スペインや、ポルトガルなどの貨幣があり、ジョージ金貨や、ルイ金貨もあれば、ダブルーン金貨、ダブル・ギニー金貨、モイドー金貨、セクィン金貨(註八四)もあり、過去百年間のヨーロッパのあらゆる国王の宵像を刻した貨幣があるかと思うと、糸の束か蜘蛛の巣のように見えるものを押刻した珍奇な東洋の貨幣もあり、丸い貨幣に四角い貨幣、それから頸にかけでもするかのように真中に孔を穿った貨幣まであって、――世界中のほとんどあらゆる種類の金《かね》がこの蒐集物の中にあったに違いないと思う。数はと言えば、確かに秋の木《こ》の葉のようにあったので、私の背中は屈んでいるために痛くなり、指はそれを択り分けるのでずきずきしたくらいであった。
次の日もまた次の日もこの作業が続いた。毎日夕方になると一財産が船に積み込まれるのだが、しかし次の一財産が翌朝を待っているのだった。そして、この間中、私たちはあの三人の生き残っている謀叛人の消息を少しも聞かなかった。
とうとう、――三日目の晩だったと思うが、――先生と私と
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