国の言葉はわかるだろう。己は選ばれてここで船長になってるんだぞ。己はずんと一番|偉《えれ》え人間だからこそここで船長になってるんだぞ。手前らにゃ分限紳士らしく勝負する気はねえんだ。それなら、畜生、己の言うことをきいてりゃいいんさ、まったくよ! ところで、己はこの子供が好きなんだ。こんないい子供は見たことがねえ。この子はこの小屋ん中にいる手前ら鼠野郎を二人一緒にしたよりも以上の人間だ。で、己の言うのはこうだ。この子に手をかける奴は己が相手になってやる、――これが己の言うことだ。違えねえぞ。」
この後は永い合間があった。私は壁を背にしてまっすぐに立っていて、心臓はまだ大鎚のように烈しく動悸うっていたが、しかし今では一条の希望の光が胸の中に射《さ》し込んで来た。シルヴァーは壁に凭《もた》れかかって、腕を組み、パイプを口の隅に啣《くわ》えて、まるで教会にでもいるように落着いていた。それでも、眼は絶えずこっそりときょろきょろし、不従服な部下を眼尻で見ていた。彼等の方はと言うと、だんだんに丸太小屋の遠くの方の端へ寄り合ってゆき、彼等のひそひそと囁く低い声が流れのように私の耳に絶間なしに聞えて来た。一人一人彼等はこっちを見上げ、そして松明《たいまつ》の赤い光がちょっとの間彼等の興奮した顔を照すのだった。しかし彼等が眼を向けるのは私の方へではなく、シルヴァーの方へだった。
「手前らはたんと言うことがあると見えるな。」とシルヴァーは言って、空中へぺっと唾を吐き跳ばした。「大声で言って己に聞かせるか、でなきゃ止《や》めちまえ。」
「失礼だがね、」と彼等の中の一人が答えた。「お前《めえ》さんは規則によっちゃずいぶんずぼらだが、多分|他《ほか》の規則は守ってくれるんだろうな。ここにいる船員は不服があるんだ。ここにいる船員はこけおどかしはちっとも有難かねえんだ。ここにいる船員は他の船員と同じに自分たちの権利があるんだ、遠慮のねえとこを言えばね。で、お前さんの拵《こせ》えた規則で、己たちは一緒に話し合ってもいいだろうと己は思うんだ。今んとこはお前さんを船長と認めるから、お前さんの許しを願う訳さ。だが己は自分の権利を要求して、会議を開きに外へ出ますぜ。」
こう言って、いやに丁寧な水夫式の敬礼をして、のっぽの、面相の悪い、黄ろい眼をした、三十五くらいのその男は、戸口の方へすまして歩いて行って、
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