》とをな。』とね。『お前はここに残ってるがいいや。そしてフリントの金をめっけ出して自分のものにしな。』って奴らは言うのさ。
でね、ジム、もう三年間俺はここにいるのさ。そしてその日から此方ってもの、人間の食物は一口も食わねえんだよ。だがねえ、おい、俺を見ておくれ。俺は平水夫みてえに見えるかい? 見えねえだろ。また、そうじゃなかったんだからな。」
そう言うと、彼は瞬きをして、私をきゅっと抓《つね》った。
「その大地主さんて人に言っておくれよ、ジム。」――と彼は話し続けた。「あの男はそうじゃなかったんです、――とそう言うんだぜ。三年が間あの男はこの島の人間になっていました、昼も夜も、天気のよい日も雨の日も。そして時々はお祈りのことも考えてたようでした(と言うんだよ)。それから時々は、年とった母親がまだ生きてるなら、その母親のことも考えてたようでした(とね)。だけどガンは大抵(とこうだよ)――あの男は大抵別の事に夢中になってました。そう言ってからお前さんは大地主さんを一つつねるんだぜ、こんな工合にな。」
と言って彼は非常に親しげな風にまた私を抓った。
「それからな、」と彼は続けた。――「それから、行ってこう言うんだよ。――ガンは善人でごぜえます(とな)。そして、あの男も元はやっぱりその仲間でしたが、あんな分限紳士よりは、生れつきの紳士の方を、とっても――いいかい、とってもだよ――信用しています、とね。」
「うん、君の言ったことは僕には一|言《こと》もわからないねえ。」と私は言った。「だが、そんなことはどうだっていい。どうして僕が船へ帰れるかね?」
「ああ、そりゃあ困ったこったね、確かに。」と彼が言った。「よしよし、俺のボートがあるよ。俺がこの二本の手で拵《こせ》えた奴さ。白い岩の下に隠してある。まさかの時にゃあ、暗くなってからあれを使ってみてもいいよ。おやっ!」と彼は急に呶鳴《どな》り出した。「あれぁ何だね?」
ちょうどその時、日が沈むまでにはまだ一二時間はあったのに、雷のような砲声が起って島中が鳴り響いたのである。
「戦《いくさ》を始めたんだよ!」と私は叫んだ。「僕について来給え。」
そして私は碇泊所の方へ、怖《こわ》さも何もすっかり忘れて、走り出した。すると、山羊の皮を着た島に置去りにされた男は、私のそばにくっついて、身軽く楽々と駆けた。
「左、左、」と彼が言
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