「それから」に傍点]国へ帰る船賃は要《い》らないのかい!」と彼は非常にずるい顔付をしながら言い足した。
「知れたことさ。」と私は叫んだ。「大地主さんは紳士だもの。それにまた、あいつらを厄介払いしてしまえば、君にも船を国へ帰す手伝いをして貰わなきゃならないしね。」
「ああ、それぁそうだろな。」と彼は言った。そして非常に安堵したような様子だった。
「じゃあ、お前さんにいい話をしてあげるとしよう。」と彼は話し続けた。「それだけ言うことにするぜ。俺はね、フリントがあの宝を埋めた時にゃあ、あの人の船にいたんだ。あの人は六人の者と一緒さ、――六人とも丈夫な水夫だった。あの連中は一週間近くも陸にいたし、俺らは海象《ウオルラス》号に乗って岸に寄ったり離れたりしてたんだ。或る日のこと、合図があって、フリントが一人で小さなボートに乗って帰《けえ》って来た。頭を青い肩巾《スカーフ》で包んでね。お陽《ひ》さんが昇りかけてた時で、あの人の顔は恐しく真蒼に見えたね。だけど、あの人だけで、いいかね、六人はみんな死んだのだ、――死んで埋められたんだぜ。どうしてあの人にそんなことがやれたのか、俺らの船の者一人も合点《がてん》がいかなかったな。何にしてもともかく、闘い、殺害、不意の死(註五六)だったのさ、――あの人が六人を相手にしてな。ビリー・ボーンズは副船長だったし、のっぽのジョンは按針手《クオータマスター》だった。その二人が宝はどこにあるのかって訊いたんだよ。するとあの人は言った。『ああ、手前《てめえ》たちぁしたけりゃ上陸してもええぜ、そしてここに残るがいいや。』とね。『だが、この船の方は、もっと獲物を探しに荒し※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]るんだぞ、畜生!』そう言ったものさ。
 ところで、俺は三年前に別の船に乗っててね、この島を見たんだ。で、言ったのさ、『おい、みんな、ここにゃフリントの宝があるんだ。上陸してめっけようじゃねえか。』とね。船長《せんちょ》はそれにゃ気が進まなかったが、仲間の奴らはみんな賛成して、上陸した。十二日もみんなで宝を探し※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]り、毎日毎日奴らは俺に悪態《あくたい》をつき、とうとう或る朝みんなが船へ行っちまった。『お前《めえ》はな、ベンジャミン・ガン、』って奴らは言うんだ。『ここに鉄砲を置いとくぜ、それから鋤と、鶴嘴《つるはし
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