太陽を眺めた。そこには、山脊のようになって長く連っている耕地があって、犂《からすき》★が一つ、前夜馬を軛《くびき》から離した時に残されたままにしておいてあった。耕地の向うには、静かな雑木林があって、燃えるように紅《あか》い木の葉や、金色のように黄ろい木の葉が、梢にまだたくさん残っていた。地面は冷くてしっとり湿《しめ》っていたけれども、空は晴れわたっていて、太陽は燦然と、穏かに、美わしく昇っていた。
「十八年とは!」と旅客はその太陽を眺めながら言った。「お慈悲深いお天道《てんとう》さま! 十八年間も生埋《いきう》めにされているなんて!」
[#改ページ]

    第四章 準備

 駅逓馬車が午前中に無事にドーヴァーへ著くと、ロイアル・ジョージ旅館《ホテル》★の給仕|頭《がしら》は、いつもきまってするように、馬車の扉《ドア》を開《あ》けた。彼はそれを幾分儀式張って仰《ぎょう》々しくやったのであった。というのは、何しろ、冬季にロンドンから駅逓馬車で旅をして来るということは、冒険好きな旅行者に祝意を表してやってしかるべきくらいの事柄であったからである。
 この時までには、その祝意を表さるべき冒
前へ 次へ
全341ページ中39ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
佐々木 直次郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング