持たして返したほんとうの伝言も、みんなそこにある。そういうものの真中から、例の幽霊のような顔が現れて来る。すると彼はまたそれに話しかける。
「どれくらいの間埋められていたんです?」
「ほとんど十八年。」
「あなたは生きたいとお思いでしょうね?」
「わしにはわからない。」
掘って――掘って――掘っている――と、とうとう二人の乗客の中の一人がたまりかねたような身動きをするので、彼ははっと気がついて窓を引き上げ、片腕をしっかりと吊革に通して、眠っている二人の姿を黙想する。そのうちにいつの間にか彼の心は二人のことから離れて、彼等は再び銀行と墓穴との中へ滑り込んでしまう。
「どれくらいの間埋められていたんです?」
「ほとんど十八年。」
「掘り出されるという望みはすっかり棄てておられたのですね?」
「ずっと以前に。」
この言葉がつい今しがた口で言われたようにまだ耳に残っている――今までにかつて口で言われた言葉が彼の耳に残ったようにはっきりと残っている――時に、その疲れた旅客は、明るい光に気がついてはっとし、夜の影がもう消え失せていることを知った。
彼は窓を下すと、顔を外に突き出して、さし昇る
前へ
次へ
全341ページ中38ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
佐々木 直次郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング