っている泥を拭ったり、半ガロン★ほどの水を含むことの出来そうな自分の帽子の鍔《つば》から水気を振い落したりした。駅逓馬車の車輪の音がもう聞えなくなってしまい、夜がまたすっかり静まり返るまで、彼はひどく泥のはねかっている腕に手綱をかけたまま立っていたが、それからぐるりと身を※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]して丘を歩いて下り出した。
「あんなにテムプル関門《バー》★から駈け通しで来たんだからなあ、お婆さん、お前《めえ》を平地《ひらち》へつれてくまではおれはお前《めえ》の前脚を信用出来ねえよ。」とこの嗄《しゃが》れ声の使者は、自分の牝馬をちらりと眺めながら、言った。「『甦《よみがえ》る』だとよ。こいつあとてつもなく奇妙な伝言《ことづて》だなあ。そんなことがたくさんあった日にゃあ、お前《めえ》のためにやよくあるめえぜ、ジェリー! なあ、おい、ジェリー! もし甦るなんてことが流行《はや》って来ようものなら、お前《めえ》はとてつもなく面白くもねえことになるだろうぜ、ジェリー!★」
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    第三章 夜の影

 あらゆる人間が他のあらゆる人間にとって深奥な秘密であり神秘であ
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