なく喇叭銃を武器箱の中へ戻し、それから、その中にある他の武器を検《しら》べ、自分の帯革につけている補充用の拳銃《ピストル》を検べると、自分の座席の下にある小さな箱を検べてみた。その中には二三の鍛冶道具と、火把《たいまつ》が一対と、引火奴箱《ほくちばこ》が一つ入っていた。それだけすっかり備えておいたのは、折々起ったことであるが、馬車ランプが嵐に吹き消された時には、車内に入って閉《し》めきり、火打石と火打|鉄《がね》とで打ち出した火花を藁からほどよく離しておけば、かなり安全にかつ容易に(うまくゆけば)五分間で明りをつけることが出来たからである。
「トム!」と馬車の屋根越しに低い声で。
「おうい、ジョー。」
「あの伝言《ことづて》を聞いたかい?」
「聞いたよ、ジョー。」
「お前《めえ》あれをどう思ったい、トム?」
「まるでわかんねえよ、ジョー。」
「じゃあ、そいつも同《おんな》じこったなあ。」と車掌は考え込むように言った。「おれだってまるっきりわかんねえんだからな。」
霧と闇との中にただ独り残されたジェリーは、その間に馬から下りて、疲れ果てた馬を楽にさせてやるばかりではなく、自分の顔にかか
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