かった。そして力弱くもがいている者も少しはあった。悲しげな不安が満ちていた。数えきれないほどの穴の底からは、埋められている者の着物のさらさらと鳴る陰惨な音が洩れてきた。静かに眠っているように思われる者も多くは、もと埋葬されたときのきちんとした窮屈な姿勢をいくらかでも変えているのを私は見た。じっと眺めていると、例の声がまた私に話しかけた。
「これが――おお、これが惨めな有様ではないのか[#「ないのか」に傍点]?」しかし、私が答える言葉を考え出すこともできないうちに、そのものはつかんでいた手首をはなし、燐光は消え、墓はとつぜんはげしく閉ざされた。そしてそのなかからもう一度大勢で「これが――おお、神よ! これが惨めな有様ではないのか[#「ないのか」に傍点]?」という絶望の叫び声が起ってきたのであった。
 夜あらわれてくるこのような幻想は、その恐るべき力を目の覚めている時間にもひろげてきた。神経はすっかり衰弱して、私は絶え間ない恐怖の餌食《えじき》となった。馬に乗ることも、散歩することも、その他いっさいの家から離れなければならないような運動にふけることもためらった。実際、私に類癇の病癖のあるこ
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