とを知っている人々のところを離れては、もう自分の身を安心していることができなかった。いつもの発作を起したとき、ほんとうの状態が確かめられないうちに埋葬されはしないかということを恐れたからである。私はもっとも親しい友人たちの注意や誠実さえ疑った。類癇がいつもより長くつづいたときに、彼らが私をもう癒《なお》らないものと見なすような気になりはしないかと恐れた。そのうえもっと、ずいぶん彼らに厄介をかけたので、非常に長びいた病気にさえなれば、それを厄介払いをするのにちょうどいい口実と喜んで考えはしまいか、ということまでも恐れるようになった。彼らがどんなに真面目に約束をして私を安心させようとしても無駄だった。私は、もうこのうえ保存ができないというまでに腐朽がひどくならなければ、どんなことがあっても私を埋葬しない、というもっとも堅い誓いを彼らに強要した。それでもなお私の死の恐怖は、どんな理性にもしたがおうともしなかったし――またなんの慰安をも受けなかった。私はたいへん念の入った用心をいろいろと始めることにした。なによりもまず一家の墓窖《はかあな》を内側から造作なくあけることができるように作りかえた。
前へ
次へ
全34ページ中22ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
佐々木 直次郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング