「僕も実はおまえの言うような気持がしたよ、」とアッタスン氏が言った。
「全くさようですよ、旦那さま、」とプールが答えた。「ところで、その猿のような覆面をした者が薬の間から跳び出して書斎の中へ駆けこみました時に、その感じが氷のようにぞっと私の背骨を通ったのでございます。おお、そんなことは証拠にゃならないということは知っていますよ、アッタスンさま。それっくらいのことは私もちゃんと存じております。しかし人には感じというものがございます。で、あれがハイドさんだったということは、私は聖書にかけても誓いますよ!」
「なるほど、なるほど、」と弁護士が言った。「僕もどうもそうじゃないかと思う。あの二人の関係から、よくないことが出来たのだろう、――よくないことが起こるにきまっていたのだ。なるほど、全く、おまえの言う通りだと思う。気の毒にハリーは殺されたのだと僕も思う。そして彼を殺害した者は(何のためだか、神さまだけしかご存じではないが)まだその被害者の部屋に潜んでいるのだと思う。よし、我々は復讐をしてやろう。ブラッドショーを呼んでくれ。」
 その馬丁は呼ばれて真っ蒼になってびくびくしながらやってきた。
「しっかりするんだ、ブラッドショー、」と弁護士が言った。「こういうどっちつかずの有様がお前たちみんなを怖がらせているんだよ。だが今我々はこんな有様にけりをつけようと思っているのだ。ここにいるプールと僕とがこれから書斎へ押し入るつもりだ。もしみんながよければ、僕が一切の責任を負うてやる。その間、何かへまをしたり、犯人が裏口から逃げ出したりするといけないから、おまえとあのナイフ研ぎのボーイとは丈夫な棒を一本ずつ持って、角をまわって、実験室の戸口のところで張番をしていなければならない、おまえたちがその部署につくまで、我々は十分間待つとしよう。」
 ブラッドショーが立去ると、弁護士は自分の懐中時計を見た。「さあ、プール、我々も部署につこう、」と彼は言って、火掻きを小脇に抱えて、先に立って裏庭へ出た。風に吹かれて飛ぶ雲がちょうど月をおおっていて、そのときは真っ暗であった。建物にかこまれて深い井戸のようになっている裏庭には、ときどき隙間風が吹き込んできて、蝋燭の光を二人の足もとへあちこちと揺り動かした。やがて彼らは風の当らない階段講堂へ入ると、黙ったまま腰を下ろして待った。ロンドンのどよめきは重
前へ 次へ
全76ページ中41ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
佐々木 直次郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング