10[#「10」は縦中横])になってしまいました。こういうことはまったくただならぬ――それまでに私どもの遭ったことのないようなことなので、はっきりなぜということもわかりませんでしたが、なんとなしに私はちょっと不安を感じはじめました。私どもは船を詰め開き(11[#「11」は縦中横])にしましたが、少しも渦流《うず》を乗り切って進むことができません。で、私がもとの停泊所へ戻ろうかということを言いだそうとしたそのとたん、艫《とも》の方を見ると、実に驚くべき速さでむくむくと湧き上がる、奇妙な銅色をした雲が、水平線をすっかり蔽《おお》っているのに気がついたのです。
 そのうちにいままで向い風であった風がぱったり落ちて、まったく凪《な》いでしまい、船はあちこちと漂いました。しかしこの状態は、私どもがそれについてなにか考える暇があるほど、長くはつづきませんでした。一分とたたないうちに嵐がおそってきました、――二分とたたないうちに空はすっかり雲で蔽われました、――そして、その雲と跳びかかる飛沫《しぶき》とのためにたちまち、船のなかでお互いの姿を見ることもできないくらい、あたりが暗くなってしまいました。
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