り、外の雪は容赦なく吹き込んでくる。寒さにたえられぬ。僕は外套でしっかりとからだを包んで坐っていた。足の先が切れるかと思うほど冷かった。
その吹雪の中を馬車が鱒沢を出て小一里も来たろう。路傍に並木のあるのが見えるところで止った。すると後の馬車から誰かが降りたらしく、
「お休みなんし!」と言って黒影がちらと見えたと思ったら、どこかに消えてしまった。
僕は何だか不思議なものを見るような気がした。
それからまた一走り、遠野の町にはいると、さすがにどことなく明るい。で今、途中で聞いた遠野で一番だと言う宿屋の高善《たかぜん》と言うのに着いたところだ。何はとも角、今夜は、眠れるんだ。もっと書きたいが、これで御免を蒙る。さよなら。遠野にて、M生。
言葉が通じない
あの翌日、起きるとS君の家を訪ねた。で、すぐそこに移る事にした。S君の家は、宿屋のある町通りから、少し横にはいったところ。
まあ、君にいろいろ報せたいことはあるが、何より第一僕は困ったよ。と言うのはね、あの次の日にS君の家に行くと、S君の阿母《おっか》さんが出てこられたから「このたびは御厄介になります」と言って挨拶をしたん
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