より外に、何の方法もないのだ。人車はあるが、六円の七円のと言ってとても僕等の手に合う筈はない。でも危険だと言われると、さすがに不安だ。旅に出るとよくこんな目に逢う。人の悪い奴等だ。でも馬車に乗るときめた。
そして、この朝からの愚痴を、君に書いたのだ。ちょうど馬車が急に動き出さないものだからね、その間に。……二日、花巻の町はずれにて、M生。
猿ヶ石川の川岸にて
あれから花巻の町はずれで、また北上川を渡った。長い長い船橋だった。今は、猿ヶ石川の岸に沿った断崖の上を通りすぎて、ちょっとした村で馬車がとまった。散々おどかされた途中は、先ず無事だった。
これから、遠野まで六里だそうだ。まだ大分ゆられなくっちゃ目的地には着けないんだ。もううんざりしている。午後二時すぎ、M生。
夜――吹雪
今やっと遠野に着いた。夜の十時半だ。
日はちょうど、宮守と鱒沢との間で暮れた。山の中腹を縫った道を永いあいだ馬車が駆けて行くうちに、四辺《あたり》が次第に暗くなって来た。おまけに雪が降り出した。鱒沢を過ぎる頃にはもう吹雪だ。馬車に腰をかけて肩から上のところは窓、その窓に垂幕があるばか
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