旅からのはがき
水野葉舟

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)旅舎《やどや》で
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   今、花巻に着いた

 九時、今、花巻に着いた。目的地の遠野行きの馬車はすぐ出るんだが、道はずいぶん遠いそうだし、それにそういそぐわけではなし、昨晩はろくに眠れなかったから、今日は一日ここで眠ろうと定めた。こんな事なら仙台で降りればよかった、と思ってる。
 ここに来て、今、S君に電報を打った。花巻。斉藤旅館にて。

   寂しいもんだ

 知らぬ土地の旅舎《やどや》で一人ぽつねんとしているってことは寂しいことだ。僕は何だか、とんでもないところに来たような気がするほど寂しい。寂しい。だから君にはがきを書く。一層寝ちまえ? 夜八時、花巻にて、M生。

   今、花巻を発つ

 午前九時、前の街道《とおり》に馬車が来た。今これからそれに乗って、ここを発つのだ。二三日前、遠野へ行く途中、この馬車が猿ヶ石川の断崖にさしかかるところで転覆したそうだ。それで、今朝も宿屋の人達に道の悪いこと、馬車の危険なことなどを散々に言っておどかされた。
 しかし、遠野に行くのには、この馬車に乗る
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