ぬものが隠れているようでもある。
しかし彼は、淋しい人である。華々《はなばな》しい、浮々した都会の空気は、とうていこの北国生まれの空想家の心臓を乱調子にせずに置くまいと思われる。……その中に秋も十月の末ごろになると、風が恐ろしく荒くなって、空が今晴れたかと思うと、見る間に一面灰色になってしまう。その頃がくると荻原は気でもちがわねばいいがと思うほど、その顔が曇って沈んで、そしてじれて、傍《そば》からはとても慰めることができないほどに、その胸の中の思いに弄ばれている。
いつも淋しい顔をして、ぽつねんと一方を見つめて、坐っているか、さもなくば、朝も昼もなく、布団をひっかぶって、ぐうぐうねている。そして、夕方になると、急に目をさまして、ぶらりとどこかに出かけて行く。あまりいつもいつも眠っているから、ゆり起こして、
「いくらねたらいいんだ?」
と聞くと、さもねむそうな眼をあげて、余計なことをするっていう顔付きをしながら、
「ああねむい!」
と言って大きな吐息をつく。そして一向学校にも行く様子がないから、なぜかと聞くと、学校の方は今年は一年遊ぶのだといって平気な顔をしている。
ある時に、用
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