てある。机の上は筆立てやら硯やらで、狭くなっているが、その狭いところから、例の机掛けの花模様が毒々しく、この室に一種の光を放っているようだ。壁には脱ぎすての衣服や袴が二た所三と所掛かっている。――この室の主人は朝おそくまで、室の戸をしめて寝ているが、やがて鬱陶しそうに目を開くと、もじゃもじゃ[#「もじゃもじゃ」に傍点]になって、額に垂れかかる、長い髪をうるさそうに手でかきあげながら、枕元の新聞を取って読みはじめる。散々床の中でもごついて、続けざまに欠伸《あくび》を二つ三つすると、ようよう起き上ることは起き上るが、それで顔を洗うまでに先ず机の前に坐って、ぼんやりして見る。顔を洗って来ても、半日は机の前に坐ったまま、何にもせず、何にも考えずに、まじまじしていることが多い。かと思うと、ぷいと家を飛びだして、一日そこら中、うろついて歩く。そんな時にでも彼の顔は、じっと底に沈んで、鬱しているので、心が華やかに動くとも思われない。
 歩く時には、肩を上げて、まるで高竿がひょいひょい行くようだ。からだに柔かみがないせいか。しかし顔を見ると血が重くおどんでいるようで、深みもある。何かちょっと判断のつか
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