付きをして、
「どうも、ひどく遅くまで話しまして……」
 と、やっとの思いで言ったように顔をそらしてしまった。それを、朝飯を一緒に食おうと言うので無理に二階に引っぱって来ると、くることは来たが、昨晩の興に乗った調子がなくなると、又もとの通りで、日向に出たのがまぶしいように、薄暗い曇った顔をしてぽつりと坐って、黙っている。
 私が話しかけても、はかばかしく返事もしない。ごく人の好い人だとは思うが、何を考えているのだか、すっかり、その心持ちがわからない男だ。
 私もひどく急がしくなかった頃なので、暇さえあれば、荻原と一緒にめしを食って、荻原の郷里《くに》の話を聞いた。それでほとんど大抵の時は一緒にいるほど、親しくなったが、荻原にはどことなく、疑り深い、かたいじなところがある。疑り深いと言っても、荻原のは、進んでぱっと華やかに、人を信ずることができないので、いつまでも、おずおずしていて、自分ばかりを守ろうとするのだ。そうかと思うと、不思議にも一方には、ひじょうに強く自分に執着するところがある。そして、いつでも陰鬱で、血が濁っているようだ。
 一緒にめしを食っていても、荻原から話しかけることは
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