しかけた話をぱったり止してしまって、不思議そうに、
「何ですか?」
 と聞く。
「いいえ、何でもないが、雨の音がひどいですね。」
 と言うと、これもにわかに気がついたように外の音を聞く。すると、急に襟元が寒いような風をして、ちらとおびえた顔付きをすると、
「私だって変なものを見たことがあります。」
 とおぼえず口走ったが、あとから、妙に疑り深い目をして、私を覗うように見る。……そのくせ、私が気の付かない顔をすると、また興に乗って来て、その話をしゃべってしまった。しかもその人にとって、大した秘密の籠っている話でもなかった。

     二

 その晩、とうとう話しくたびれて、荻原が二階を降りたのは、かれこれ朝の二時ごろであったろう。別に用らしい話は少しもなかったところを見ると、このような性質の人で、話相手が欲しかったのかもしれない。私は寝床の中に入ってからも、不思議な感情を持っている男だと思った。
 次の朝起きると、はたして、私と同じくらいまで寝ていたと見えて、洗面場でぱったり出くわした。荻原は私の顔を見ると、にやりとしたが、私が、
「や、昨晩は。」
 と言うと、何かきまりが悪そうな、眼
前へ 次へ
全25ページ中12ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
水野 葉舟 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング