顔は、曾《かつ》て一度も見たことのない顔である。また、これとは変《かわ》って、毎晩、恐ろしい男の顔を見る友人があった。その友人は、遂《つい》に辛棒《しんぼう》仕切れなくなって、夜になると、友人の下宿へ行って寝た。

     ○

 鹿児島の高等学校に行っておる自分の従弟が先日来ての話である。
 夜中にその室の襖が開く、そうすると次の室が見え透く。不思議に思って翌朝その事を次の室の友人に話すと、那※[#「麾」の「毛」に代えて「公の右上の欠けたもの」、第4水準2−94−57]《そんな》ことは知らぬという。その翌晩には友人がその室に寝たら、矢張《やはり》前夜の通り、襖が開いてその次の室が見え透いた。そこで、その翌晩は二人がその室に寝たら、一人は矢張《やはり》前晩の通り見たが、一人は非常に魘《うな》された。

     ○

 熊谷《くまがい》のさる豪農に某という息子があったが、医者になりたいという志願であったから、鴻《こう》の巣《す》の某家に養子に与《や》った。医師の免状も取って、業《ぎょう》も開き、年頃の娘を持つくらいの年になってから、重症に罹《かか》って、永《ながら》く病床に呻吟《しん
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