く言って、自分にほのめかした。自分は、
「そうか?」と言ったきり答えなかった。
六
その夜、木村は着いた。つぎの日に発つことにして、馬車を頼んだ。するとその男は、S港に出る方の馬車は毎日、たつ[#「たつ」に傍点]かどうか分らぬが、ともかく見てくると、例のようにもたせぶりをして行った。
自分はそのあとで、この二三日のことを話して、木村に、
「少し金をやろうか?」と言うと、木村は、
「くせになるから止したまえ。たまにはあてがはずれるのもいい薬だ。」と言った。自分も同意した。
やがて、例の男は帰えってくると、非常に骨を折ってやっと馬車ができたと、頻りに恩に着せた。
自分はそれを感じない顔をしていた。
つぎの朝、いよいよ発つと言う時に、従兄が少しおくれて、来てくれなかった。自分は別れも惜しい、それに少し話もあるからと思って、手紙を書いた。
それを持って行って貰おうと思って、人を呼ぶと、例の男がにこにこしてはいって来た。
「これをすぐ持って行かしてくれ。」と手紙を出すと、俄かに剣のある顔をして、
「使いは出ません。いま家はいそがしくって……金を出せば行くものはあります
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