腹を割いて臓腑を引き出してみた。
 そこを通りかかった男が、立ち止って、
「兎だな。」と言って、両手をうしろに廻わしながら、じっと見ていた。髭の男は振り返ってちょっと笑って、
「今日、踴鹿野《おどりかの》で捕った。」と言いながら頭まで剥いでしまった。
 私は、その男の油ぎった顔と、厚い唇とを一心に見ていた。その時、
「や。」と、S君に呼ばれて、目を転じたが、町はさらに薄暗くなっていた。
 郵便局の前を通りがけに、東京に宛てて、着く日を知らせた電報を打った。そして幅の広い一条町《ひとすじまち》を西にまがって、着いた晩に泊った高善と云ふ宿屋に腰を下ろした。室に通ると、もう灯がついた。
 湯にはいって落ちつくと、まず私はこの町で新しく知り合いになった、I君に手紙を書いた。I君は私とは同じ時代に同じ学校にいて、中途でよして帰って来た人である。また、しばらく逢う事ができまいから、ここで知り合いになったいろいろな人と集まろうと思った。そのうちには小説を書くM君という青年もいる。
 I君はすぐ来た。私はその相談をすると、その夜、町の小さな料理屋へ案内されて、穴のような天井の低い二階に通された。唐紙も
前へ 次へ
全27ページ中9ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
水野 葉舟 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング