が、行くとすぐ飽きてしまうんだよ。」
「東京はいいからな。」
「やっぱり東京はいいんだね。」
「だからもう帰ろう!」と言って、S君は気負った。
「帰ろう。」私はしかし気のない返事をした。それで言葉が絶えた。私の心持ちは仕事のことや、家のことやで急《せ》き立っているけれど、からだはこの炬燵の中にどっしりと坐り込んでしまったようだ。微かだが自分のからだを如何《どう》することも出来なくなったようで気がじれる。
暫くすると、S君は何か思い出したように、
「君、本当に、も少しいる気はないか? 雪の解けるまで。」
「さあ……」私は大きいあくびをした。「まだ、その雪が解けてなんとかの花が咲くまでは大変だろう?」
「カタゴの花? それまでには二十日も、も少しくらいは間があるだろう。」
「じゃ、もう発とうや。仕事だって駄目だよ。」私は切りすてた調子で言った。すると、
「発たう。明日《あす》発たう。」とS君もこの倦んだ心持ちに反抗した調子で気負ってこう言った。
私達はしまいにはこんなふうだった。
で、私の仕事も中途だったが、なんとか始末をつけることにして、それから三日目、三十日に出発することに決めた
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