りた。私達の馬車に続いた馬車からは、いろいろの人が降りた。判事さんは二三人の人に出迎えられていそがしそうに挨拶をすると、行ってしまった。私はくる時に、休んだおぼえのある家の門に立って道の方を見ていた。S君がもしや来はせぬかと思いながら……。
私が目指しているH町からの馬車はまだこぬと言うことだ。宿のものは、いったい、今は道が非常に悪いので、いつくるか分らぬと言っている。私は路傍に投げ出されて、残されているような気がした。そして門に立ったままでいた。
すると、つっとS君が自分の前に立った。
「や!」と私は驚いて言った。
「いま着いたですか?」
「うん。だが、Hからの馬車がまだこないのだって、今夜はおそくなるね。」
「そう。……じゃ、ここにお泊りなさい。」
と言うようなことを話し合いながら、二人は二階にあがった。宿の娘はついて来て炬燵に火を入れてくれた。二人はそこで食事をしながら話した。
「僕はもうくる道で、幾度も泣きたくなった。」とS君が言った。
「僕は近路をしようと思ってくると、山はまだ雪が一ぱいでした。そこでたった一人郵便配達夫がくるのにあったが、そのほかには人一人通らなかった
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