でしょう。」私の考えと、判事さんの話とは、少し齟齬《そご》するところがあった。私の考えでは、都会の人は神経が糜爛《びらん》しているように思えた。したがってその行為の方が複雑で残酷だと思われたのだ。
と、馬車がとまった。峠を上り詰めたようなところだった。道は渓から離れて、小広い平なところになっている。
馬車がとまると、小屋の中から男が待ち兼ねたように飛んで出て来た。イムバネスはこれを見て二三度頭を下げた。イムバネスの乗っている下に来ると、
「和尚さん!」とあらためて呼んで、紙にもつつまない五円紙弊をイムバネスに渡した。イムバネスがそれを受取ると、その男は別に二十銭銀貨を一つ出して、
「これは御布施で。」と言った。
「イエ、イエ」とイムバネスはそれを押し返したが、とうとう幾度か頭を下げて、それを受取った。
私はそれを見てこの男は坊主かと思った。
馬車はまた動き出した。イムバネスの饒舌《おしゃべり》はなお続いた。
やがてM村に着いた。ここは馬車の乗り継ぎどころである。
時計を出して見ると、もう三時になっていた。空にはどことなく日がまわったらしい色が見えた。
乗客はそわそわして降
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