に声をかけると、ピシリと馬の尻を打った。ガタリと大きく揺れると、悪いぬかるみのなかを駆け出した。私達は急にからだの均衡をうしなう程だった。

     六

 白々と薄日の射した空の下を、馬車は慌てたように駆けて行く。M村を離れると、道はしだいに山の裾に向っていた。
 馬車が動き出すとやがて、なかでは膝を譲りやって、座が落ちついた。誰とも顔を見合わせるが、私は打解けて話そうとせぬ。すると、インバネスが、松蘿を持った二人に、
「今日は馬車が、込みまっしろうが?」と聞いた。
「めずらしく乗る人が多かったとかで、昨夜申込んだ人だけしか乗せぬと言っていました。」と、その一人が答えた。
「それでも、私等はここではどんな無理を言うても、乗せてくれるのさ。今日なども、私等のために乗せられなかった人があったろう。」イムバネスは得意らしく言った。
 私はその言葉を聞くと不快を感じた。土地の人の専横な行為が、勝手を知らぬ旅人に、こうして、不便な目に逢わせるのか、と思って、その男の顔を見据えた。イムバネスはなお自分がこの土地で勢力のあると言うことを話している。そのうちに馬車は次に上《かみ》M村の方に近い山に
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