まで行って、あすこから電話でT町まで、言ってやったらいいでしょう。」と言う。
「電話?」私はこの田舎には思いがけないことなので、問い返した。
「ええ、Mに行けば警察署の電話がありますから、それを借りたらばいいでしょう。」
「あ、そうですか。」と言ったが、私は落ち着かなかった。も一度T町に引き返そうか、とも思った。からだがだるいので、これから引き返して、半日でもいいから、のびのびと眠りたいとも思った。それに、金を持たずに一晩でも全く知らぬ土地に泊るのが、心細くも思われた。で、なんとなく決めかねて、心で迷いながら立つと、ずるっと上着の下からパンツの上に重いものがずり落ちた。私ははっとして又あわてた。「ああ矢張りあった」と思ったが同時に、自分のあわてた姿がどうにもきまりが悪く感じられた。私は判事さんの顔を見て苦笑しながら、なかば独語のように、
「ありました。」と言った。
 で、煙草の代を払うと、唾のぬめった口に熱い煙を強く吸い込んだ。
 やがて、最前出た二人の若い者の一人はあわただしく飛び込んで来た。手に松蘿《さるおがせ》のついた小枝を持っていた。が、はいると、それを私達の二人のあいだにさし
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