道に立って見ると、闇の奥がはかり知られないような気がした。そしてその暗い中に、近くの山の黒い形がぱっと見えた。私はその闇に彩《いろど》られて見る景色を見て、恐ろしさを感じた。が、今見ると平凡な田舎の茶店だ。
で、私は外に出ようとも思わずに、ただ馬車の出るのを待った。馬車は悠々として二十分、それより以上も動かなんだ。私は倦んで来た。と同時に、睡眠の不足のために頭がふらふらし出した。で、思いついて、幕を上げると茶店のものを呼んで煙草を持ってこさせた。さて金を払おうとすると、ポッケットの中を捜したが、金入れが見当らない。私はあわてて覚えず、
「オヤ?」と声を出した。いそいで方々のポッケットを捜したが手にさわらなかった。私は心で今朝までいた宿屋の二階の一室を思い浮べて、自分の粗忽《そこつ》を怒った。覚えず、
「チョッ!」と、高く舌打ちした。
と、いままで、向側から私の様子をじっと見守るようにしていた判事さんが、重っくるしい調子で、
「何かお忘れでしたか?」と言った。私は、
「ええ。」と微かに苦笑したが、「金入れを……」と言うと、
「宿屋にですか、昨晩の宿屋でしょう、それならば、この先きのM
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