だががたっとのめり[#「のめり」に傍点]かけて馬車がガラガラ動き出した。立っている人達は、それについて四五歩歩いて来た。が、馬車は急に駆け出した。
「さようなら!」とまた両方から言った。
馬車は半町も行くと北にまがった。送ってくれた人達も見えなくなった。私は垂幕から顔を入れて、座をきちんとした。ちょっとその判事さんと顔を見合せたが、互いになんとも言わずに、よそを向き合った。私は思いついて自分のうしろの垂幕を絞り上げた。
馬車は北に向いた一直線の、長い町を走っている。庇《ひさし》の長く突き出た、薄黒い町の屋根は、永い雪解けのあとで、まだ乾き切らぬように、青黒く湿っている。その上に、いま、薄い日がさしている。寒そうな、くすんだ朝だ、と思って見ていると、ずっとうしろの曲り角を、ひょっくりとS君がまがった。私は思わず帽子を振った。
S君も帽子を振った。と、不意に馬車が止った。
「一人か?」町の方を向いて、馭者が言う。
「二人だ。」と下から言う。そこへ二十四五の筒袖の外套を着ている、雪帽子をかぶった男が二人はいって来た。私達にちょっと印ばかりに頭を下げて見せると、向い合って坐った。
馬車
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