伸ばして、凍った雪を踏みながらその家のうしろに出た。寂然《せきぜん》とした冬枯れの山林が小さな田を隔てて前にある。地はすっかり雪が覆《かぶさ》って、その中から太い素直に伸びた若木が、白っぽい枯木の色をして立っている。私はその奥をすかして見た。ただ、雪と、林の木と幹とが見えるばかり。空を見れば、風もなく、烟《けむり》のような灰色の曇った空だ。空疎な、……絶えがたい寂莫な自然の姿だ。
ギュッと自分のごむ靴の底が雪に鳴った。私は立ったまま手にあった地図と鉛筆とをしっかり握って、しばらくこの寂莫が恐ろしいもののようにその林をすかして見ていた。
家の前で馬がいなないた。私は心づいて前の方に出て来た。すると、右側の雑貨をならべた家の前に、例の男が、……橋の上も馬車を降りなかった男が立っていた。
その男が私を見るとにやにやしく笑いかけた。私は知らぬ顔をして、ずっとその向い側に入って行った。その男は奉書紬《ほうしょつむぎ》の紋付を着て、黒い山高帽子をかぶって、何か村の有力家と言った姿をしていた。
私のはいった家には、はいったとこの土間に炉があって、それに馭者が大きくなって火に当っていた。同じ車
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