る。
それで永いあいだ、その遠野に行こう、……山で囲まれた町、雪の中の町を見に行こうと希《ねが》っていた、好奇心がすっかり消え去ってしまうようだった。
馭者が鞭を振った。さも嫌やそうに、馬がのそりのそりと動き出した。と思うとビシリと、鞭があたる音がして、急に駆け出した。息がはずむように、揺り上げられる。
私は寂しい、少しぼっと気が遠くなったような心持ちがして、揺られながら目の前に移って行く景色を見入っていた。
道が山の中に入った。その時には私達の馬車は、もうよほど遅くれていた。前の馬車は、二町ばかり先きの松林の中を走っている、と思うと、道が曲って見えなくなった。
一つ、ゆるい坂を上って下ったと思うと、馬車はさらに勢いよく駆けた。そして、道の行手に二三軒家のあるところにくると、前の馬車がそこに止っている。私の乗っている方の瘠せた馬は躍り上るようにして、それへ駆けつけた。
「休むのか?」とうちから黒羅紗の外套が声をかけた。
「ああ。」と、台の上から馭者が返事をした。
車が止まった。私は地図を持ったまま外に出た。一時間ばかり乗っていたのだが、もうからだが痛い。私は思う存分、足を
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