どやどや降りて来た、車の中の人にまじって、そのまま一人で橋を渡った。
 中途まで来て振り返って見ると、一間ばかり後のところに同じ車の老人がくる。私は歩みを止めて老人が追いついてくるのを待った。一緒に並ぶと、しばらく無言で歩いていた。
すると、
「どこまでおいでです?」と老人らしい調子で先方から口を切った。
「遠野までです。」私は待っていたように答えた。老人は歩きながら、改めて私を見返した。私はなお何か話そうと思ったが、心が重くって次の言葉が出なんだ。
 向いの岸に着いて馬車のくるのを待っていると、そこへ二台の馬車に乗っている人達がしだいに集まって来た。前の車に乗っていた娘は二人だった。色の赭黒い血肥りのした丈の短い……一人の方は頬に火傷《やけど》の痕《あと》があった。その娘達のうしろにその爺《おやじ》かと思われる鼠色の古びた帽子をかぶって顔も着物もぼやけたような四十五六の男が一人歩いて来た。
 その人達が思い思いに河岸に立って、馬車のくるのを待っていた。やがて、馬車はゴトリ、ゴトリと橋板の上に音をさせて近づいて来た。
 すると、前に来た馬車の中から、一人の男が顔を出していた。垂幕
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