。で急に賑やかになった。

     六

 つぎの朝も、私が起きた時には隣りではもう出ていていなかった。
 昼の食事を運んで来た時に、下女がしきりと孤児院の慈善音楽会が町で大評判になっていることを話した。演奏者は町の人達で、それぞれ隠し芸を見せると言った[#「言った」は底本では「言つた」]。
 午後、私は野口君の誘いにくるのを待って、じっとしていると、町を芝居の寄太鼓《よせだいこ》をたたいて通った。芝居も今夜からはじまるのだ。

 夜は雪が降り出した。その中を私達は四五人連れでその芝居を見に行った。更けてから帰ってくると、見る間にすっかり雪が積っていた。静かに、ああこの町は眠り切っている。静かな中に何物か大きな足で、町の上を歩いて行くのであるようだ。私は歩きながら、野口君に、
「雪国だね。」と言った。
「まだ今日は風がないから。」と野口君は答えた。
 宿に帰って、私は寝ようとして、寂然《しん》とした心持ちになると、隣室の人達が計画している音楽会が、この今夜のように静かに眠っている町に、何か新らしい波紋を起こそうとしているように思われる。
 で、心に隣室の人の顔を思い浮べて、しみじみと
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