。」
「成程!」と、一人が深く感じたように小声で言った。
「女ってものは君、名誉心が強いね。今日で見たまえ。あの若い細君が、小学校の先生が発起人に名を出すなら、私のも出せと言ったじゃないか。あれだからこんどでも、すぐまとまったのだ。」
「それで」と急に言葉を改めて、「明日は切符を印刷しなければ、白と青と、赤と、……君、ここでは(と声を低くした)まだ音楽会などをしたことはないと見えるね。入場券を五十銭、二十銭と言ったら皆で反対したではないか。十五銭、十銭、五銭にするなんて……」
その時に膳を運んで来たと見えて、話は止んだ。私は例の紋付の赭《あか》い面《つら》を思い浮べた。
夜、私は室で野口君や、その友人のくるのを待って[#「待って」は底本では「持って」]いた。
食事がすむと、隣りではまた話がはじまった。のびのびした調子で互いに生国や、若い時分の――二人とも四十三とか五と言っていた。――ことを話し出した。一人の男は信州で生まれて東京で育ったといっていた。
「僕も長く東京にいた。」と伊勢の男は自慢らしく言った。
そのうちに、私の室には三人の客が来た。みな野口君や私と同年ぐらいの人だ
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