ていると、隣りの人達が帰って来た。「ああ、弱ったね。今日は!」と室に入るとまず重荷をおろしたと言った調子で一人が言った。例の紋付だ。
「いや、実に君の手腕には敬服した。実に君は外交家だ。」と一人が感嘆した。
「なに、ああやらねばいけないんだ。女の集まったところでは、一方ではああやって煽動《おだて》て置いてね、承知してもしなくっても、話をずんずん進めて行かないと、ことはまとまらないからね。‥‥だけれど君、うまく行った。郡長の夫人はさすがよく分ってる。そりゃ経験のある人の言うようにしなければって、さすがだね、あれは分ってるよ。」
 一人の方はただうなずいている様子だ。
「ああ良く行ったね。これも全く君、郡長の夫人の盡力だよ。それでね、君は明日はね、昨日うつして置いた名簿を持って行って、会員のところを訪問するんだ。するとね、君、大抵の家では主人が留守だからと言ってことわるからね。行くと、誰か出てくるね、その時にすぐ郡長の夫人から参りましたがと、やってしまうんだ。そうすれば誰でも郡長の夫人だからすぐ逢うからね。その時にこれこれだと言い出すんだ。すればきっと一枚や二枚はいやだと言えないじゃないか
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