るとき、互いに出逢って話し合った話などを話していると、野口君は熱心に聞いていながら、どこか妙にそわつい[#「そわつい」に傍点]た調子を見せ出した。やがて、
「ね君、ね。僕こんなところに来ていると心寂しくって、……気が苛立ってたまらない。Hはそんなに勉強してるかね。」と急《せ》ぎ込んでいる。
「勉強しているよ。この秋までには必ず例の論文を書くと言っている。」
「いつかの『海運史』かい?」これを聞くと私は野口君の顔を振り返えって、大きく笑って、
「どうしたんだい。オイ。」と言った。
 それで野口君もはっとしたと見えて、夢でも覚めたように声を出して笑った。私は、
「何だ、君のは熱の病人見たいな笑い声じゃないか。」と言うと、
「ああ、つい釣り込まれちゃった。東京に行きたい。ねえ!」と言って私の肩を打った。
「行こうよ。」私は調子よく言ってしまった。野口君はしばらく沈んでいたが、
「東京は夜でも明るいやね。それにあの華々しい女の声が聞きたい。」と言って、冗談《じょうだん》らしく笑った。
こうして話しているうちに、私達はいつか町はずれの松並木の前に出ていた。

 夕方、私は一人でぽつねんと食事をし
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