こう思った。文明の悪い波の端《はし》が、押し寄せて来ようとしているのだ。こんなところの女までがおだてられて、仕事の真似をするのか……と。

     七

 つぎの夜、私の室にまた三人の青年が集まった。その中の一人がこんな話をした。
「今日昼になす、裏町では(遊廓のある町)大騒動だった。昨夜の役者が一同で大浮かれさ。」
 それで、私は、
「ほう、なるほど、夜は行かれないから昼間行くんですね。」と言ったが、旅から旅に渡って歩く淫蕩な男と、操《みさお》と言うことを壊されてしまった女とが、相抱いて別れる時にも、捨てたものとも、拾ったものとも思わないように両方で平然としているその顔が見たいような気がした。それを話すと、それから、恋に対する話がさかんに起こった。
 そのうちに夜も更けた。四人とも話に倦んだ顔をしていると俄かに家が揺れ出した。
「地震!」と一人は腰を立てかけた。
「まあ、静かにしたまえ。」と私は坐ったままでその人を制したが、しだいに強く揺れる。するとMと言う人は立って釣るしてあるランプを押えた。野口君は入口の唐紙を開けた。
 そして、四人はじっと顔を見合わせていると、ぐっすり寝てい
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