く言って、一人がドタリと坐った。それに続いて下女がはいって[#「はいって」は底本では「はいつて」]行くと、
「姉さん、何よりまあめし[#「めし」に傍点]を喰わせて下さい。また早速出かけるのだから。」と高調子に言った。何か汗ばんだ[#「汗ばんだ」は底本では「汗ばんた」]顔をしてでもいるように思われる。
「それで……」と、ちょっとひっそりしたと思うと、またそのせわしそうな声が聞こえる。
「君、まず愛国婦人会の名簿は見たから、午後は一つ有力家の家を訪問するんだ。ね、役場に行って町長さんにお目にかかりとうございますとやったのはよかったろう。」
「うむ、僕も大いに感心した。それで午後はどこに行こう?」と、ぼやけた声がする。
「一つ愛国婦人会の幹部の家に行こう。そして、ぜひあなた方の御盡力で一つ、……とやるんだね。」
 二人は食事しながら話しているらしい。私は何をしに来た人達かと思った。
 下女がはいって来たから聞くと、盛岡の孤児院の人で、こんど遠野で慈善音楽会をするのだと言った。
 慈善音楽会か。私は昨夜の馬車から見た雪に埋もれた山野を思い出して、慈善音楽会があると聞いた時には、深山で波の音を聞
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