の勾配の急な屋根の家が、高低を乱してつづいている。町の色が黒い。
馬車は町の中ほどでちょっと止まったばかりで、いそがしそうに出発した。前の馬車では娘の一人が馭者を呼んで菓子を買わせていた。
二
やがて、渓流に沿った道に出た。道がしだいに上りになって行く。山が迫ってくるので、あとの方が広い野のように見える。私は地図によってこの川が猿ヶ石川であることを知った。
道がまがるに連れて、景色が変って行く。見ると先きの方に大きい山の中腹を一條の道が走っている。それがわれわれの行く道であろう。
私はもう疲れた。からだの自由は利かず、目に見える自然に飽いた。ねむりたいと思ったけれど、眠ることもできない。ただじっとからだを据えたまま、心でいろいろのことを思い描く。私は四年ぶりで逢った従妹の顔を思い出していた。子供の時分にはほとんど一緒に育った女だったが、四年逢わずにいたうちに結婚して、子供を生んでいた。その従妹の家に泊っていたあいだに私はしばしば、従妹が自分にはどうしても解することができない女になったと思った。……その従妹の顔がふと胸に浮かぶ。
着いたはじめには、二人で向い合って
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