空を見ると、つめたい、灰色の煙が立ち籠ったような空の色だ。
「これが、北国空《ほっこくぞら》か……」と思いながら、寒さと寂しさとがからだに沁みて来るようなので、私は堅く唇をむすんだ。
 宿屋を出て、町の街道《とおり》にくると、出たところに白い布の垂幕《たれまく》をおろした、小さな箱形の馬車が二台並んでいた。

 昨日、日の入るころ着いた時には、雪が解けて、この町には濁った水が流れていた。それが今朝はすっかり凍っている。その上を飛び飛び馬車に近づくと、私は馬の丈夫そうな先き立っている方に乗ろうとした。
 すると、そこに立っていた、赭顔《あからがお》の喰い肥った馭者が押し退けるような手真似をして、うしろのに乗れと言った。うしろのはその馬車にくらべると、馬も瘠せて小さかった。
 私は知らぬ土地に来た、旅人の心弱さで、黙って二三歩歩きかえして、瘠せて肋骨の出た馬が牽いている方に乗ろうとした。その時、前の馬車の垂幕があがって、うしろ向き美しく髪を結った娘が首を出した。

 私の乗った方には、二重マワシを着た長顔の鬚の白い老人と、黒羅紗《くろらしゃ》の筒袖の外套を着た三十恰好の商人体《しょうにんて
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