だ。元来女の性質は単純《シンプル》な物事に信じ易いものだから、尚更《なおさら》こういうことが、著《いちじ》るしく現われるかもしれぬ。それが為《た》めか、かの市巫《いちこ》といったものは如何《いかに》も昔から女の方が多いようだ。
 また曾《かつ》て、或《ある》老僧の幽霊観を聞いた事があったが、それは、人がもし死ぬという瞬間には、その人の過去に経て来た、一生涯の光景が、必ずその人自身の眼先《めさき》に見えるものだと、いっていたが、丁度《ちょうど》これと同様な話を、その後《のち》にまたある知己《ちき》からも聞いた事があった。それは、その人が 或る[#「 或る」はママ]闇夜《あんや》に道を歩いていて、突然知らずに、高い土手の上から辷《すべ》り落ちたそうだが、その際土手を辷《すべ》り落ちて行く瞬間に、矢張《やっぱり》その人自身の過去の光景が、眼に映ったといっていた。そして尚《なお》老僧のいうのには、その場合その人自身の頭脳《あたま》に、何か一つ残るものがあって、それは各人に依《よ》って異《ことな》るが、もしも愛着心《あいじゃくしん》の強い人ならば、それが残ろうし、恨悔《くや》しい念があったらば、
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