ち、あたりはお暗くなりそめた。泥濘が足をすう。
 くらい中を大声あげてくる男の群五、六人、何者ぞとすれちがうおり、かれこれ互に見やれば、肩には白いもの、何匹かの兎が闇に浮ぶ。猟師だったのだ。漢詩のようなと私は思った。案内は、さっきから頻《しき》りに腹がへったと訴える、まだ食物店のある所へは出ないのだ。暇をくれというのを、暗くっておあしもあげられないよと、すかしすかし氷砂糖などやって、県道との追分までつれてきた。七時、そこで分れて、闇の中を、ぴしゃぴしゃ西条へ。
 長野へゆく汽車はあれどもおそくなる。まあ泊ろうと、前の宿屋に草鞋をぬいだ。西石川の贅沢《ぜいたく》は望むでなけれど、夜の物などの浅ましさ、湯も立たぬ。

    信越線を

 昨夜もすこし雪が降ったのだ。凍れる朝を長野にいって、Kを驚かし、やまやという感心もせぬ旅宿に昼餐《ちゅうさん》したため、白馬山におくられ、犀川よぎり、小諸《こもろ》のあたり浅間《あさま》山を飽《あ》かず眺め、八ヶ岳、立科《たてしな》山をそれよと指し、落葉松《からまつ》の赤きに興じ、碓氷《うすい》もこゆれば、曾遊《そうゆう》の榛名《はるな》、赤城《あかぎ》
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